加齢や閉経などが原因で骨がスカスカになってもろくなり、骨折しやすい状態になる骨粗しょう症。
自覚症状が現れにくく、進行してから気づくことも珍しくありません。
放置すると背中が曲がるなどして日常生活の質が低下するほか、高齢者では骨折した部位によっては寝たきりになり、死亡リスクが高くなることも。
骨の状態は検査で確認することが可能で、早期に病気を発見できれば、薬物治療や食事、運動などで骨に含まれるカルシウムなどの量「骨量」を増やしていくことができます。
専門医の宮崎大学医学部附属病院 病院長の帖佐悦男先生に、骨粗しょう症の特徴や骨の検査の重要性などについて聞きました。
インタビュー
宮崎大学医学部附属病院 病院長
帖佐 悦男 先生
骨折気づかず進行も
骨粗しょう症はどんな病気なのでしょうか。
加齢や閉経などを原因に骨量が減少して骨がスカスカになってもろくなり、ちょっとした衝撃でも骨折する危険性が高くなった状態です。
国内で推計1280万人(男性300万人、女性980万人)の患者さんがいるとされています。
また、足腰の筋力や運動機能が低下する「ロコモティブシンドローム(ロコモ)」の原因の一つでもあります。
骨折しやすい箇所は太ももの付け根や背中、腕の付け根、手首です。骨粗しょう症の発症初期はほとんどの場合で自覚症状がなく、知らぬまに進行していることも珍しくありません。
転倒などでひどく痛んで病院を受診した結果、骨粗しょう症による骨折が見つかることがある一方、痛みが軽いもしくは痛みがないため、骨折に気づかない患者さんもいます。
気づきにくい骨折で注意したいのが、背骨の圧迫骨折。くしゃみや重い物を持ったときなど、ふとした動作で背骨がつぶれるように折れます。
放置すると身長が縮んで背中や腰が丸くなり、高い場所に置いた物が取りにくい、歩きにくいなど日常生活の質が低下します。
また、背骨は1カ所骨折すると他の箇所も折れやすくなるため、背中や腰がより丸くなるリスクが上昇。変形した骨が背中を走る神経を障害し、麻痺が起こることもあります。
このほか高齢者が太ももの付け根を骨折すると、リハビリテーション医療(リハビリ)などがうまくいかず寝たきりにつながることもあり、死亡するリスクも高くなります。
実際に2019年の国の調査では、「65歳以上の方が要介護者となった主な原因」として、「転倒・骨折」は「認知症」や「脳血管疾患」などに次ぐ4番目です。
骨の検査で早期発見
骨粗しょう症になりやすい方の特徴は。骨粗しょう症の早期発見に大切なことは。
誰にでも起こりうる病気ですが、高齢者や、女性で母親や祖母の背中が曲がっていたり骨折の既往歴があったりする方、平均より少し早い45歳ごろまでに閉経を迎えた方は、骨粗しょう症を発症するリスクが高いです。
重要なのは、医療機関で定期的に検査・検診をして、骨の状態を確認することです。早期に骨粗しょう症を発見できれば、治療して骨折するリスクを下げることができます。
残念なことに、日本では運動器に痛みがあっても、なかなか病院を受診しない傾向にあります。
2019年の国の調査によると、病気やけがなど自覚症状のうち運動器にかかわる痛みは、男女とも上位に位置しています(「腰痛」が男性1位・女性2位、「肩こり」が男性2位・女性1位、「手足の関節が痛む」は男性5位・女性3位)。
しかし、通院している方の疾患別でみると、男性は運動器疾患が上位5位以内になく、女性で「腰痛症」が5位に入る状況です。
医療現場でも麻痺が起きたり、骨折して歩けなくなるほどになったりして、ようやく病院を受診する方と遭遇します。
早期発見する上でチェックしてほしいのが、「丸まった背中や腰」。白髪やシワと同じく加齢に伴うものだと認識されがちですが、背骨の圧迫骨折が原因の場合があります。
ご自身やご家族で背中や腰の丸みが気になる場合は、壁にからだをくっつけて立ってみて後頭部がつかないか、もしくは身長を測定して若いころより2cm以上低下している か、下にあるイラスト(ワン・ツーチェック)を参考に調べてみてください。
どちらか当てはまる方は背骨の骨折が起きている恐れがありますので、病院を受診しましょう。
骨量はどのように検査するのでしょうか。
主な骨量の測定方法は3種類で、X線を用いる二重エネルギーX線吸収法(DXA法)とMD法、超音波を用いる定量的超音波測定法(QUS法)があります。
このうちDXA 法は背中や足の付け根の骨などに2種類のX線を当てて骨量を測るもので、他の測定法と比べて精度が高いです。
医療機関によって設備は異なりますので、診療内容や費用含め、事前に受診したい医療機関のホームページを確認したり、電話で問い合わせてみたりしてください。
骨粗しょう症の予防法は。
骨粗しょう症は予防が可能な疾患で、予防の三原則は「食事・運動・日光浴」です。
食事面ではバランスの良い食生活を心掛け、なかでもカルシウムとカルシウムの吸収を助けるビタミンDを多く含む食品を取るようにしましょう。
ビタミンDは紫外線に当たることで皮膚でも生成されます。日光浴の時間は夏なら木陰で30分、冬なら1時間程度で十分です。
運動によって骨は刺激されて強くなります。また、筋肉も鍛えられて骨折の原因となる転倒防止につながるほか、ロコモやメタボリックシンドロームなどの予防効果も期待できます。
ジャンプなど激しい刺激は、骨の状態によっては骨折を助長しかねませんので、散歩や日常の運動を楽しみながら続けていくとよいでしょう。
このほか、過度の飲酒や喫煙は控えてください。転倒の原因となる病気(膝や腰の痛み、白内障といった目の病気など)、めまいや眠気を起こす薬の服用には注意が必要で、行動面では特に夜間のトイレなどには気をつけましょう。
現在は新型コロナウイルス禍のなか、運動環境の確保が難しい面もあります
宮崎大学は遊びながら楽しく体を動かせる新感覚ロボットシステム「ロコボット」を開発。「3密」を避けつつ子どもからお年寄りまで運動できる機会を提供すべく、臨床研究を進めています。
骨粗しょう症の治療法は。
治療は骨量を増やして骨の強度を高め、骨折リスクの軽減を目指します。また、痛みがある場合は緩和させて生活の質を保っていきます。
基本は予防と同じく食生活の改善と適度な運動で、それに加えて薬物療法を行います。
かつて骨粗しょう症の治療は、検査値などから効果を実感することが難しい面がありました。
現在は治療効果の高い薬が登場し、検査などで目に見えて効果を実感できるようになっています。
薬は飲み薬や注射薬などのタイプがあり、それぞれ服用(投与)する間隔が異なります。
例えば飲み薬では1日1回のものから月1回のもの、注射薬では1日1回のものから年1回などさまざま。
治療は継続することが重要ですので、ぜひ医師と相談して、患者さんのライフスタイルに適した治療法を見つけていきましょう。
疾患を自分ごとに
骨粗しょう症については、県内でも啓発や予防を目指した動きが進んでいる。
県内では、延岡市が「健康長寿のまちづくり」を目的に2020年から、旭化成株式会社と共同で「骨粗しょう症による骨折予防を目的とした健康長寿のまちづくり」に取り組んでいます。
宮崎大学も連携しており、延岡市医師会と協力しながら市民の骨折頻度や治療実績などの現状を把握し、治療介入によるエビデンスを提出して研究結果を市民に還元していく予定です。
これまで宮崎大学は、産官学連携のもとロコモ予防でさまざまな活動を展開。
CM放映、ロコモチェック法や予防運動が記された日めくりカレンダーの配布、健康教室や市民公開講座の開催、各地域でロコモ予防を呼びかけるスタッフ(ロコモメイト)の育成などに取り組んできました。
認知度は高まった一方、発症リスクが高くこちらが参加してほしいと思う方には、なかなか情報が届かないという課題も浮かび上がりました。
骨粗しょう症は一般の方からの認知度はある一方、ロコモと同様に自分ごととして捉えている方は少ないように感じます。
骨粗しょう症は誰にでも起こりうる疾患であるからこそ、予防し、万が一骨折してしまったとしても、適切な治療によって1回の骨折で終わらせることが重要です。
まずは自分ごとと捉え、骨の検査を受けることから始めてください。
そして延岡市と旭化成グループの活動にも注目してもらい、骨粗しょう症による骨折を予防するモデルケースをともに目指していければと思っています。