骨粗鬆症は、骨がもろいために骨折が起きやすくなる疾患です。高齢の方で骨折が起こると、健康的な生活を送ることが難しくなることがあります。骨粗鬆症は早期発見・早期治療が重要ですので、骨粗鬆症がどんな疾患か学び、気にかけてみてください。
骨粗鬆症で注意したいポイント
①60歳代女性の5人に1人は骨粗鬆症
骨の強さを決める要素の一つに、骨量(骨密度)があります。
骨量(骨密度)は年齢によって変化するもので、20歳ごろに最大となり、40歳半ばまでほぼ横ばいで推移します。そして50歳近くから減少しますが、女性は男性と比べると骨量(骨密度)の減る度合が大きくなります。これは、骨代謝(骨の新陳代謝)のバランスを調節している女性ホルモン「エストロゲン」が閉経を機に減少・欠乏することで起こります。
実際に日本国内の骨粗鬆症の患者さん推計1280万人のうち、約4分の3(980万人)が女性です1)。また、女性は年齢が高くなるほど骨粗鬆症の有病率(人口全体に対して特定の疾患にかかっている人の割合)が増える傾向にあり、50歳代女性の10人に1人、60歳代女性の5人に1人、70歳代女性の3人に1人、80歳以上の女性の2人に1人が骨粗鬆症といわれています2)。
②骨折は寝たきりなど要介護※1の大きな原因になります
骨粗鬆症を発症すると、重たい物を持ち上げたとき、つまずきや転倒などちょっとした動作や衝撃で背骨(椎体)や腕の付け根(上腕骨近位部)、足の付け根(大腿骨近位部)、手首(橈骨遠位端)を骨折することがあります。
特に背中や足の付け根を骨折した場合は、体の動きが痛み等で制限されるため、日常生活への支障やQOL(生活の質)の悪化、果ては寝たきりにつながるリスクがあります。
実際に、厚生労働省が行った調査では、「65歳以上の方が要介護者(※1)となった主な原因」として運動器の障害(「転倒・骨折」「関節疾患」)が最も多い結果となっています。
※1 入浴、排せつ、食事等の日常生活の中で介護・介助が必要な状態、あるいは必要な方。
③骨粗鬆症は気づきにくい疾患です
骨がもろくなる骨粗鬆症ですが、初期はほとんどの場合で症状がなく、発症自体に気づきにくいという特徴があります。そのため痛みなど何かしら症状が現れるときには、既に骨粗鬆症が進行していて骨折が起きていることが珍しくありません。
例えば、骨粗鬆症によって背骨を骨折すると体を動かしたときに痛みが表れることがありますが、その痛みが骨折によるものだと気づかないことがあります。骨折を放置していると、背中や腰が曲がったり、身長が縮んだりすることがあります。
④骨粗鬆症は誰にでも起こりえます
骨粗鬆症は高齢の方が健康で元気に生活を送っていく上で注意したい疾患ですが、若い方が無視してよい疾患ではありません。実際に、40代でも骨粗鬆症によって背中(腰椎)や足の付け根(大腿骨近位部)を骨折している方もいるのです。
骨量(骨密度)は個人差があり、その最大値(最大骨量、ピークボーンマス)も異なります。最大値は成長期にしっかり運動し、バランスの良い食事を摂取していれば高くなりますが、反対に運動不足や偏食、過度なダイエット、日光浴の不足などで低くなることもあります。
最大値が低ければ、比較的早い段階で骨量(骨密度)が骨の折れやすいゾーンまで減少してしまいます。
また、骨粗鬆症には閉経や加齢以外の理由によって起こる「続発性骨粗鬆症」というタイプがあり、閉経前の女性や男性が骨粗鬆症を発症した場合は、このタイプの可能性が高いです。
続発性骨粗鬆症の原因(表.1)には、糖尿病や慢性腎臓病(CKD)などの疾患やステロイド薬などが挙げられます。
内分泌性 | 副甲状腺機能亢進症、クッシング症候群、甲状腺機能亢進症、性腺機能不全など |
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栄養性 | 胃切除後、神経性食欲不振症、吸収不良症候群、ビタミンC欠乏症、ビタミンAまたはD過剰 |
薬物 | ステロイド薬、抗痙攣薬、ワルファリン、性ホルモン低下療法治療薬、SSRI、メトトレキサート、ヘパリンなど |
不動性 | 全身性(臥床安静、対麻痺、廃用症候群、宇宙旅行)、局所性(骨折後など) |
先天性 | 骨形成不全症、マルファン症候群 |
その他 | 糖尿病、関節リウマチ、アルコール多飲(依存症)、慢性腎臓病(CKD)、慢性閉塞性肺疾患(COPD)など |
骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン作成委員会編.骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2015年版.東京,ライフサイエンス出版,2015,p126より引用
骨粗鬆症との向き合い方
まずは骨の検査を受けてもらいましょう!
ご家族の中で、腰や背中に痛みや曲がりがある方、身長が若いころより2cm以上低くなった方がいた場合は、既に骨粗鬆症を発症して骨折が起こっているかもしれません。骨粗鬆症は早めの治療が重要ですので、まず病院を受診してもらいましょう。
また、骨粗鬆症は基本的に症状がないまま進行する疾患です。現時点で気になる症状がみられなくても、骨の状態を確認してもらいましょう。
そして、ご自身も今の骨の状態を把握しておくと、骨量(骨密度)が低くても食生活や運動で改善を図ることができます。骨量(骨密度)は遺伝的要因の影響を受けることもありますから、ぜひご家族と一緒に検査しに行ってみてください。
治療を継続しましょう
骨粗鬆症の治療は薬物治療を中心に行われますが、効果が表れるまで時間がかかる場合があります。そのため服薬や通院の煩わしさから、自己判断で治療をやめてしまう方も少なくありません。
途中で治療をやめてしまうと、治療の目的である骨折の予防が果たせません。末永く健康で過ごしてもらうためにも、治療を続けられているか、定期的に確認してみてください。
また、骨粗鬆症の治療は薬物治療のほかに、適度な運動や、カルシウムやビタミンD、ビタミンKなどを意識しつつバランスの良い食生活によって骨量(骨密度)の増加を目指します。こちらも声掛けを行っていきましょう。
骨粗鬆症を予防するために
バランスの良い食事や適度な運動は、治療だけでなく骨粗鬆症の予防においても重要です。
ジョギングやジャンプ運動など骨に負荷のかかる運動が効果的ですが、負荷が強すぎるとかえって体を痛めてしまうこともあります。年齢や体の状態に合わせた運動を勧めてみましょう。
そして骨の検査も、骨粗鬆症の予防において役立ちます。現時点での骨量(骨密度)を把握しておけば、数値によってその後の生活に気を配ることができます。
1)骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン作成委員会 編:骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2015年版.ライフサイエンス出版.2015,4.p4
2)山本逸雄ほか, Osteoporosis jpn. 1999;7(1):10-11