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骨のコラム

産後の腰痛、実は骨粗鬆症が原因かも?~女性医師が伝えたい骨粗鬆症②

女性ホルモン(エストロゲン)の分泌量が急激に減少する閉経は、骨がスカスカになってもろくなる骨粗鬆症の原因の一つです。一方で、出産や過去の生活習慣、病気などが原因となって閉経前にも関わらず骨の密度(骨密度)が低下し、骨粗鬆症になる場合もあります。

知っておきたい閉経前に起こる骨粗鬆症について、整形外科専門医の伊藤薫子先生(女性のための整形外科かおるこHappyクリニック院長)にお話を伺いました。

伊藤 薫子 先生

インタビュー

女性のための整形外科かおるこHappyクリニック 院長

伊藤 薫子 先生

妊娠中・出産後に注意したい骨粗鬆症

伊藤 薫子 先生

閉経前でも起こる骨粗鬆症の中で知っておいてほしいのが、「妊娠授乳関連骨粗鬆症」の存在です。
妊娠中は月経が止まるため閉経状態になりますが、エストロゲンは子宮にできる胎盤などから多く分泌されています。しかし、出産で胎盤が出されると分泌量は急激に減り、授乳によって月経の再開まで時間がかかるため体内のエストロゲンの量は低い状態になります。また、赤ちゃんに母乳を与えることで体内のカルシウム量も減少しがちです。これらの影響で骨密度が低下して骨粗鬆症になってしまうのが妊娠授乳関連骨粗鬆症です。

このタイプの骨粗鬆症の特徴として、椎体(背骨)が全体的に平らに潰れる圧迫骨折が挙げられます。高齢の方でみられるような椎体の前方がくさび状につぶれる圧迫骨折とは違ってレントゲン検査(X線検査)では見つけにくく、MRI検査でようやく骨折が判明することもあります。そのため妊娠中や出産後に腰痛が気になって病院を受診しても、X線検査の結果から「よくある腰の痛み」と診断されてしまうことが珍しくありません。

骨密度は出産後に月経が再開されてエストロゲンの分泌量が戻れば回復しますが、骨折を適切に治療しなければ椎体骨折が多発してしまう危険性もあります。あまりにも痛みが長引いたり、起き上がれないぐらいの激痛があったりした場合は整形外科の専門医がいる医療機関を受診してみてください。

妊娠授乳関連骨粗鬆症になる割合は低く、カルシウムやビタミンD、葉酸をしっかり取っているほとんどの方は心配ないかと思います。ただし、日ごろから喫煙の習慣がある方、アルコールを1日コップ3杯以上飲んでいる方などは骨密度が低い場合があります。骨密度を調べるためには骨密度検査を受ける必要がありますが、妊娠中は精度の高いX線検査(DXA検査)を受けづらく、出産後は子育てに追われて医療機関を受診しにくい状況かと思います。妊娠に向けた健康な体づくり(いわゆる妊活)に入るタイミングで、体の様々な箇所をチェックするのにあわせて骨密度検査の受診も検討してみましょう。

月経不順や無月経があった方も要注意

ほかにも、早い年代で骨粗鬆症になるリスクの高い方がいます。例えば子宮内膜症など婦人科系の治療ではエストロゲンの分泌量を低下させ閉経と同じ状態を作り出すことがあり(偽閉経療法)、長引いたり(治療を)繰り返したりすると骨代謝※1が乱れて骨密度が低下する可能性があります。医療機関で骨密度を測定できていないケースもありますので、婦人科系の治療に取り組んでいる方は骨密度も気にかけてほしいです。卵巣や子宮を摘出した経験がある方も同様です。

また、思春期に食事制限を伴ったダイエットや激しいスポーツによって月経不順や無月経の期間があった方も骨密度には要注意です。幼少期から増え続けて20歳ごろに最大となる骨密度にとって、思春期はその最大値を上げられる大切な時期です。本来は適度な運動や食事でカルシウム・ビタミンDを意識して取るなどして骨密度をできるだけ高めるはずが、極端なダイエットや運動不足、偏食、月経不順や無月経などがあると十分に獲得できなくなります。すると、比較的早い段階で骨粗鬆症になるリスクが高くなってしまいます。

このほか以下のチェックリストに当てはまる方、ご家族の中に骨粗鬆症になった方や太ももの付け根(大腿骨近位部)を骨折した方がいる場合は、閉経前でも骨密度検査を受けてみてください。

骨粗しょう症 チェックリスト

※1:骨の新陳代謝のこと。骨は古くなった骨を溶かす「骨吸収」と新しい骨を作る「骨形成」を繰り返して、常に作り替えています。

骨粗鬆症の予防は、様々な原因を知っておくことが大切

妊娠授乳関連骨粗鬆症など「閉経前でも骨粗鬆症になることがある」ことを頭に入れておくと、腰痛があったときに病気を疑って適切な行動をとれますし、日ごろから骨密度を気にかけた生活を送ることができます。妊婦さんが身近にいる保護者さんやお友達にも、ぜひアドバイスしてみてください。

また、骨粗鬆症は思春期から予防・対策ができる病気です。この年代のお子さんがいる保護者さんは骨密度の最大値を増やすため、牛乳などカルシウムを多く含んだ食品を取らせたり、適度な日光浴※2を意識させるなどしてください。外見が気になって食事を制限したくなる年頃ですが、骨密度の低下を招く生活はできる限り避けさせるようにしましょう。

※2:皮膚に紫外線を当てることで、体内でビタミンDを生成できます。天気がよい日に直射日光を15~30分ほど浴びるよう心掛けてください。肌ダメージが気になる場合は、手のひらや腕だけでもOKです。

骨粗鬆症は検査ができます。
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