治療の中心は薬物治療
骨粗鬆症と診断されたら治療が開始されます。
骨粗鬆症治療の目的は、骨強度を高めて骨折を防ぎ、QOL(生活の質)を保つことです。
骨量(骨密度)の減少具合によりますが、治療法の中心は主に薬物治療で、食事療法と運動を並行して行っていきます。既に骨折している場合は、骨折箇所をギプスで固定、必要であれば手術で治療しながら薬物治療を行います。
また、他の疾患等が原因で起こる続発性骨粗鬆症については、原因疾患を治療したり、可能なら原因薬物の中止もしくは減量を行います。これらの対応が難しいケースでは、積極的に骨粗鬆症に対する治療を行います。
骨吸収を抑える薬
骨を壊す破骨細胞の活動を抑える薬です。
ビスホスホネート
骨吸収を抑えることで、骨量(骨密度)を増やす働きがあります。いくつか種類があり、骨折すると日常生活への影響が大きい背骨(椎体)や足の付け根(大腿骨近位部)の骨折が発生する割合を抑える効果が認められている薬もあります。
ビスホスホネートは飲み薬と注射薬(医療機関での注射)に分けられます。お薬をのむもしくは注射する間隔は薬の種類によって異なり、飲み薬は1日1回、1週間に1回、4週間に1回、月1回のタイプ、注射薬は4週に1回、月1回、年1回のタイプがあります。
選択的エストロゲン受容体作働薬(SERM)
破骨細胞の働きを抑える女性ホルモンのエストロゲンと同じ作用を発揮し、骨量(骨密度)を増やす効果があります。
薬の種類は飲み薬で、閉経でエストロゲンの分泌が欠乏することで起こる骨粗鬆症の患者さんに使われます。
抗RANKL抗体
RANKLとは、破骨細胞の形成・活性化などを促進するたんぱく質です。この薬剤はRANKLに作用することで、骨吸収を抑制します。骨量(骨密度)を増やす働きがあり、背骨(椎体)や足の付け根(大腿骨近位部)の骨折が発生する割合を抑える効果も認められています。薬の種類は注射薬(医療機関での皮下注射)です。注射の間隔は6ヵ月に1回です。
骨形成を促進する薬
新しい骨を形成する骨芽細胞を増やす薬です。
副甲状腺ホルモン薬
骨芽細胞を活性化させて骨形成を促す作用があり、骨量(骨密度)を増やします。背骨(椎体)の骨折が発生する割合を減らします。薬の種類は注射薬(皮下注射)で、1日1回患者さん自身が注射するタイプと、週に2回患者さん自身が注射するタイプ、医療機関で週1回注射するタイプがあります。
骨量(骨密度)が非常に低下していて骨折の危険性が高い患者さんや既に骨折している患者さんなどに用いられます。
この薬による治療期間は最大2年まで(24カ月間)と限られています。
骨吸収を抑え、骨形成を促進する薬
骨形成を抑えて骨吸収を促す糖タンパク質(スクレロスチン)の働きを抑える薬です。
抗スクレロスチン抗体
スクレロスチンは骨の細胞から出る物質で、骨形成を阻害する働きがあります。抗スクレロスチン抗体はスクレロスチンの働きを抑えて骨形成を維持・促しながら、骨吸収の働きを抑え、骨量(骨密度)を増やします。薬のタイプは注射薬(皮下注射)で、医療機関で月1回の注射を12カ月続けます。 骨量(骨密度)が非常に低下していて骨折の危険性が高い患者さんや、既に骨折している患者さんなどに使用されます。
骨に必要な材料を補充または骨代謝をサポートする薬
骨に必要な成分を補充したり、骨代謝をサポートしたりする薬です。骨の状態や、食事で摂取することが難しい方などに処方されます。
カルシウム
カルシウムは骨の構成成分の一つで、骨代謝に欠かせない栄養素です。他の薬剤と比較すると骨量(骨密度)を増やす効果や、太ももの付け根以外の骨折が発生する割合を抑える効果は弱く、他の薬剤と併用されることが多いです。
骨粗鬆症の患者さんのカルシウム摂取量は1000mg/日が望ましいとされており、食事で補えない分は飲み薬で摂取します。薬で500mg以上取る必要がある場合は、複数回に分けて服用します。
活性型ビタミンD3
活性型ビタミンD3には骨代謝に欠かせないカルシウムやリンの腸での吸収を促進する働きがあり、骨形成の促進・骨吸収の抑制によって骨量(骨密度)を増加させます。椎体(背骨)の骨折リスクを減らす効果も認められています。薬の種類は飲み薬です。
ビタミンK2
ビタミンK2は高齢者で摂取不足になると、太ももの付け根を骨折するリスクが高くなります。摂取によって骨量(骨密度)の維持もしくはわずかながら増加効果があり、太ももの付け根以外の骨折が発生する割合を抑える効果も報告されています。
主に閉経によって起こる骨粗鬆症の患者さんに対して処方されます。飲み薬です。
その他:骨粗鬆症に伴う痛みに使われる薬
カルシトニン
骨粗鬆症による背中や腰の痛みを訴えた患者さんに使われます。
薬のタイプは注射薬(医療機関での筋肉注射)です。注射の間隔は使用する薬によって異なり、週1回もしくは週2回です。
どんなタイプの薬が処方される?
薬によっては飲み薬や注射薬などのタイプがあり、それぞれ服用(投与)する間隔が異なります。医師は以下の点などを考慮し、またできる限り治療を続けられることを重視して患者さんに処方する薬を選択しています。医師とよく相談しながら自分のライフスタイルにあった薬物治療に取り組みましょう。
- 症状
- 患者さんの年齢
- 骨粗鬆症の原因
- 骨量(骨密度)が低くて骨折のリスクが高いもしくは既に骨折しているか
- 高血圧や糖尿病など、他の病気で既に複数の薬を服用しているか
- 介護が必要な方もしくは認知症の方など、定期的に医療機関を訪れる機会があるか
食事療法について
骨粗鬆症の治療と聞くと、「カルシウムが含まれた食材をいつもより多めに摂る」ことをイメージする方がいるかもしれませんが、過剰に摂取する必要はありません。エネルギーや様々な栄養素をバランスよく摂取するよう心掛けましょう。特にビタミンD、ビタミンK、タンパク質はカルシウムとともに必要な量をしっかり摂取することが大切です。
逆に、コーヒーや紅茶などカフェインを含む食品やアルコールなどを過剰に摂取することは控えましょう。
必要な栄養素は基本的に食事から摂ることが望ましいですが、食が細い方などは十分に摂取できないケースも考えられます。その場合は医師とよく相談した上で、サプリメントなどで補うこともあります。
運動について
骨は負荷がかかることで強くなる性質があるため、運動によって骨密度を上げられる可能性があります。
また、運動療法は筋力やバランス感覚の維持・向上にもつながり、骨折の直接的な原因となる転倒の予防にもなります。
本来ならジャンプやジョギングなど骨にかかる負荷の強い運動が望ましいですが、骨粗鬆症の患者さんが行うとかえって転倒・骨折のリスクになってしまいます。
比較的安全に行える主な運動を紹介します。
ダイナミックフラミンゴ療法
目は開けたまま立った状態で、片足を上げるトレーニングです。このとき、高く足を上げる必要はなく、床につかない程度で問題ありません。転倒のリスクがあるため、机などにつかまって行うと良いでしょう。
左足、右足ともに1分間ずつ行い、1日3セットを目指します。
スクワット
両足を肩幅より少し広げた状態で立ち、そこから前傾姿勢でゆっくり5~6秒かけて腰を下ろし、5~6秒かけて元の姿勢に戻します。このとき膝がつま先よりも前に出ないように注意しましょう。こちらも転倒のリスクがあるため、机などをつかんだり、後ろに椅子やソファがある状態で行うと良いでしょう。
5~6回を1日3セット実施することを目指しましょう。
ヒールレイズ
かかとを上げるトレーニングです。両足を肩幅より広げた状態で立ち、そこからかかとを上げ、ゆっくりと下ろします。かかとは高く上げ過ぎる必要はありません。
20回程度を1日2~3セットを目指しましょう。
治療は継続しましょう
骨粗鬆症の治療はすぐに効果が表れるものではなく、時間がかかる場合があります。
そのため自己判断で服薬をやめてしまう方も少なくありませんが、途中でやめてしまうと骨折の予防が難しくなります。医師とよく相談しながら、根気強く治療を継続して強い骨を作っていきましょう。
【整形外科医からのメッセージ】
骨粗鬆症の治療目的である骨折予防効果を明確に発揮できるまでの治療期間は1ないし数年程度必要です。
また、閉経後骨粗鬆症の主な原因であるエストロゲンの減少は生涯続きますので、骨粗鬆症の治療も長期にわたり必要となることが少なくありません。
特に脆弱性骨折をきたした方は骨折の連鎖を予防するためにも骨粗鬆症治療をしっかり継続しましょう。