大切なのは『適切なエネルギー摂取』と『バランスの良い食事』
骨粗鬆症の予防や治療において、まずは体重や筋肉を維持するために適切なエネルギーやたんぱく質、その他さまざまな栄養素をバランスよく摂取することが重要です。
バランスの良い食事を基本とした上で、骨の主な構成成分であるカルシウム、カルシウムの吸収を助けるビタミンD、カルシウムが骨に沈着するのを促進するビタミンKは、積極的に摂取したい栄養素です。このほかビタミンB6、ビタミンB12、葉酸、ビタミンC、たんぱく質は、骨量(骨密度)とともに骨の強さ(骨強度)を決める要素「骨の質(骨質)」に影響を与えます。
紹介した栄養素を適切に摂取することで、骨量(骨密度)の最大化、維持および改善などの効果が期待できます。既に骨粗鬆症を発症している場合も、薬物治療の効果を高める上で有効ですので、普段からバランスよく栄養を取るように心掛けましょう。
不足しがちなカルシウム
カルシウムは骨の材料で、骨量(骨密度)の維持に欠かせません。 1日に推奨されるカルシウムの摂取量は、年齢や性別によって異なります(表1)。
表1 カルシウムの食事摂取基準(mg/日)
男性 | ||||
---|---|---|---|---|
年齢等 | 推定平均必要量 | 推奨量 | 目安量 | 耐容上限量 |
0〜5(月) | - | - | 200 | - |
6〜11(月) | - | - | 250 | - |
1〜2(歳) | 350 | 450 | - | - |
3〜5(歳) | 500 | 600 | - | - |
6〜7(歳) | 500 | 600 | - | - |
8〜9(歳) | 560 | 650 | - | - |
10〜11(歳) | 600 | 700 | - | - |
12〜14(歳) | 850 | 1,000 | - | - |
15〜17(歳) | 650 | 800 | - | - |
18〜29(歳) | 650 | 800 | - | - |
30〜49(歳) | 600 | 750 | - | - |
50〜64(歳) | 600 | 750 | - | - |
65〜74(歳) | 600 | 750 | - | - |
75以上(歳) | 600 | 700 | - | - |
女性 | ||||
---|---|---|---|---|
年齢等 | 推定平均必要量 | 推奨量 | 目安量 | 耐容上限量 |
0〜5(月) | - | - | 200 | - |
6〜11(月) | - | - | 250 | - |
1〜2(歳) | 350 | 400 | - | - |
3〜5(歳) | 450 | 550 | - | - |
6〜7(歳) | 450 | 550 | - | - |
8〜9(歳) | 600 | 750 | - | - |
10〜11(歳) | 600 | 750 | - | - |
12〜14(歳) | 700 | 800 | - | - |
15〜17(歳) | 550 | 650 | - | - |
18〜29(歳) | 550 | 650 | - | 2500 |
30〜49(歳) | 550 | 650 | - | 2500 |
50〜64(歳) | 550 | 650 | - | 2500 |
65〜74(歳) | 550 | 650 | - | 2500 |
75以上(歳) | 500 | 650 | - | 2500 |
妊婦 | +0 | +0 | - | - |
授乳婦 | +0 | +0 | - | - |
資料:厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」より引用
ただ、毎年行われている国民・健康栄養調査では、日本人の平均カルシウム摂取量は特に成人で必要量を下回る結果が出ています。また、高齢になると食も細くなりがちで、一般に若いころと比べてカルシウムの吸収率も低下してしまうなか、骨量(骨密度)を維持・増加させるためには、日頃から上手にカルシウムを摂取する必要があります。
まずは日々どの程度カルシウムが取れているか、下の項目でチェックしてみましょう。
石井光一,上西一弘,石田裕美他.簡便な「カルシウム自己チェック表」の開発とその信頼度の確定.Osteoporo Jpn 2005;13:497-502より引用
カルシウムを多く含む食材
カルシウムが多く含まれる食品は、乳製品では牛乳やプロセスチーズにヨーグルト、大豆製品では豆腐(木綿豆腐、凍り豆腐)や納豆、魚介類では干しエビやイワシの丸干しにシラス干し、野菜・海藻類では乾燥ひじきや小松菜、チンゲンサイなどです。
上手にカルシウムを摂取するポイント
手軽で取りやすい乳製品を活用
乳製品は手軽に取りやすい上にカルシウム含有量が多く、他の食品と比べて吸収率も高いです。牛乳やプロセスチーズ、ヨーグルトを意識して取るほか、脱脂粉乳(スキムミルク)を料理に加える方法もあります。エネルギーや脂質が気になる方は、低脂肪や無脂肪タイプを選んでみてください。
また、コーヒーや紅茶などに含まれるカフェインは、多量に摂取すると尿へのカルシウム排泄を促進させる働きがあります。コーヒーや紅茶が好きな方は飲み過ぎないようにし、飲む場合は牛乳を加えるなどしてカルシウムを補給しましょう。
アルコールは適度な量を楽しんで
カフェイン以外で注意したい飲料は、アルコールです。アルコールは直接カルシウムの吸収に影響を与えるものではありませんが、過度に飲み過ぎると生活習慣病を発症するリスクがあります。適度な量を楽しみましょう。
また、カルシウムと同じ骨を構成するリンは、過剰に摂取するとカルシウムの吸収を妨げる働きがあります。リンが多く含まれるスナック菓子やインスタント食品等を多量に取り続けるのは控えましょう。
手製ふりかけでカルシウム補給
乳製品が苦手な方は、カルシウムを多く含む干しエビやゴマ、小魚などを炒ってすりつぶして、手製のふりかけを作ってカルシウム補給を目指しましょう。
ビタミンD、ビタミンKを含んだ食品もあわせて摂取
骨量(骨密度)を維持・増加させるためには、腸管や腎臓からのカルシウムの吸収・再吸収を助けるビタミンDが不足してはいけません。また、摂取したカルシウムを骨に取り込ませる働きを促進させるビタミンKも大切です。カルシウム摂取とともに、ビタミンD、ビタミンKを多く含んだ食品も取り入れましょう。
ビタミンD、ビタミンKを多く含んだ食品
- ビタミンD
サケやサンマ、イワシ(丸干し)、ブリなどの魚類、干しシイタケやキクラゲなどのきのこ類 - ビタミンK
納豆など発酵食品に多く含まれている。そのほか小松菜、ホウレンソウ、春菊などの緑色の葉物の野菜
ビタミンD、ビタミンKの摂取基準は以下の通りです(表2)(表3)。
表2 ビタミンDの食事摂取基準(μg/日)
男性 | ||||
---|---|---|---|---|
年齢等 | 目安量 | 耐容上限量 | ||
0〜5(月) | 5.0 | 25 | ||
6〜11(月) | 5.0 | 25 | ||
1〜2(歳) | 3.0 | 20 | ||
3〜5(歳) | 3.5 | 30 | ||
6〜7(歳) | 4.5 | 30 | ||
8〜9(歳) | 5.0 | 40 | ||
10〜11(歳) | 6.5 | 60 | ||
12〜14(歳) | 8.0 | 80 | ||
15〜17(歳) | 9.0 | 90 | ||
18〜29(歳) | 8.5 | 100 | ||
30〜49(歳) | 8.5 | 100 | ||
50〜64(歳) | 8.5 | 100 | ||
65〜74(歳) | 8.5 | 100 | ||
75以上(歳) | 8.5 | 100 |
女性 | ||||
---|---|---|---|---|
年齢等 | 目安量 | 耐容上限量 | ||
0〜5(月) | 5.0 | 25 | ||
6〜11(月) | 5.0 | 25 | ||
1〜2(歳) | 3.5 | 20 | ||
3〜5(歳) | 4.0 | 30 | ||
6〜7(歳) | 5.0 | 30 | ||
8〜9(歳) | 6.0 | 40 | ||
10〜11(歳) | 8.0 | 60 | ||
12〜14(歳) | 9.5 | 80 | ||
15〜17(歳) | 8.5 | 90 | ||
18〜29(歳) | 8.5 | 100 | ||
30〜49(歳) | 8.5 | 100 | ||
50〜64(歳) | 8.5 | 100 | ||
65〜74(歳) | 8.5 | 100 | ||
75以上(歳) | 8.5 | 100 | ||
妊婦 | 8.5 | - | ||
授乳婦 | 8.5 | - |
資料:厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」より引用
表3 ビタミンKの食事摂取基準(μg/日)
年齢等 | 男性・目安量 | 女性・目安量 |
---|---|---|
0〜5(月) | 4 | 4 |
6〜11(月) | 7 | 7 |
1〜2(歳) | 50 | 60 |
3〜5(歳) | 60 | 70 |
6〜7(歳) | 80 | 90 |
8〜9(歳) | 90 | 110 |
10〜11(歳) | 110 | 140 |
12〜14(歳) | 140 | 170 |
15〜17(歳) | 160 | 150 |
18〜29(歳) | 150 | 150 |
30〜49(歳) | 150 | 150 |
50〜64(歳) | 150 | 150 |
65〜74(歳) | 150 | 150 |
75以上(歳) | 150 | 150 |
妊婦 | - | 150 |
授乳婦 | - | 150 |
資料:厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」より引用
ビタミンD補給は日光浴も有用です
ビタミンDを摂取する方法は、食事だけではありません。皮膚に紫外線を当てることで、体内でビタミンDを生成することができます。
天気が良い日に15~30分程度、直射日光を浴びるよう心掛けましょう(ガラスを通して日光を浴びても、十分な紫外線に当たることができません)。
紫外線による肌へのダメージが気になる方は、手のひらや腕だけでも問題ありません。
サプリメントは?
カルシウムやビタミンD、ビタミンKなど必要な栄養素は、できる限り食事から摂取したいところです。ただし、食が細いなどの理由で、うまく栄養素を摂取できない方もいることでしょう。その場合はサプリメントで補給するのも一つの手です。ただし、カルシウムのサプリメントは過剰摂取すると心血管疾患のリスクを高めるという報告もあります。どの栄養素でも自分の摂取量を把握しながら、サプリメントはあくまで足りない分を補うものだと認識しましょう。
骨粗鬆症の方はより多く摂取を
骨粗鬆症の治療においては、カルシウム、ビタミンD、ビタミンKそれぞれ通常の摂取基準量より多めに取ることが推奨されています。
表4 骨粗鬆症治療におけるカルシウム、ビタミンD、ビタミンKの食事摂取基準(μg/日)
栄養素 | 摂取量 |
---|---|
カルシウム | 700〜800mg |
ビタミンD | 400〜800IU(10〜20μg) |
ビタミンK | 250〜300μg |
たんぱく質、炭水化物は取り過ぎないように
たんぱく質は取り過ぎると腎臓に負担がかかって慢性腎臓病(CKD)に、体重を増やそうと炭水化物や脂質を極端に多く取ってしまうと糖尿病や肥満にそれぞれつながるリスクがあります。
糖尿病、慢性腎臓病などの生活習慣病は続発性骨粗鬆症の原因になりうるため、取り過ぎは避け、できる範囲で運動も行いましょう。